災害大国・日本。
どのような自然災害がいつ発生するか予見できない時代、あらゆる企業で災害への「備え」をする必要があります。今回のSONAERUは、「企業防災」について解説します。
はじめに
「“私は関係ない。私の企業は大丈夫だ”と思った瞬間に、巻き込まれ、被災する」とは、『新時代の企業防災』(河田惠昭著)の冒頭の書き出しである―。
企業は、自然災害の発生を覚悟し、普段からできるだけの「備え」と、発生した際の「対処要領」を検討し、徹底することが必要です。
東日本大震災以降、企業の事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)または事業継続マネジメント(BCM:Business Continuity Management)は、内閣府が主導したこともあり、大企業の約71%、中堅企業の約40%で策定済みと、かなり普及してきました。
しかしながら、内閣府は「企業は、BCMと防災活動を並行して推進すべきである」としている一方、ほとんどの企業の防災活動は、安否確認、少量の備蓄、簡単な防災訓練などに留まっており、自社の「防災計画」を策定し、社を挙げた防災ビジョンのもとで普段の「備え」をはじめ、計画的な防災活動を推進している企業は数えるほどしかないのが現状です。
参考:内閣府ホームページ
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r04/zuhyo/zuhyo1-01_08_02.html
「企業防災」とは何か
国が策定した「防災基本計画」の「企業防災の促進」の中に、以下の記載があります。
「企業は、災害時に企業の果たす役割(生命の安全確保、二次災害の防止、事業の継続、地域貢献・地域との共生)を十分に認識し、(中略)各企業において災害時に重要業務を継続するための事業継続計画(BCP)を策定するよう努めるとともに、防災体制の整備、防災訓練の実施、事業所の耐震化・耐浪化、(中略)予想被害からの復旧計画策定、各計画の点検・見直し、(中略)等の事業継続上の取組を継続的に実施するなど事業継続マネジメント(BCM)の取組を通じて、防災活動の推進に努めるものとする。(後略)」
引用:防災基本計画
https://www.bousai.go.jp/taisaku/keikaku/pdf/kihon_basicplan.pdf
「企業防災」の目的
では、「企業防災」は何のために必要でしょうか。
① 「いのち」(従業員・家族・顧客)の安全確保
② 経営資産の保全(二次災害防止)
③ 事業の継続、あるいは中断した場合の早期再開
④ 社会貢献(協働対処、地域貢献)
企業防災の目的はこの4つに要約されます。企業によって多少の差異はあると思いますが、これらの目的を達成するために、企業は事前減災努力(予防)を加速する必要があります。
「防災計画」とBCM(BCP)の関係
企業が策定する「防災計画」は、「企業防災の目的を達成する」ものでなくてはなりません。
「防災計画」とBCM(BCP)の関係を時系列で整理すると下図のようになります。
普段(平時)から“災害時に発生する”「リスク」を分析し、そのための「備え」を含め、「防災計画」として策定することと、BCM(BCP)として計画することに区分した方が理解しやすいことがわかります。
「防災計画」各区分の詳細
●防災構想(全般)
対処すべき災害や地域の特性、さらにリスクを分析し、自社の企業理念に基づく
「防災ビジョン(展望)」を明確にし、
基本方針や重視施策を具体化します。
●災害予防計画(災害発生前=平時)
「災害予防計画」は防災活動の成否を握ります。平時の「予防」、つまりリスクへの「備え」と、いかなる事態でも機能する「対応力」を養っておきます。
具体的には、
防災体制(組織)の整備、建物の耐震化、備蓄、災害資器材の整備、避難路・避難場所の整備、実際に災害が発生した場合を想定した防災訓練などを具体的に計画し、優先順位の高いものから逐次実行します。
●災害応急対策計画(災害発生から約1週間)
実際に災害が発生した際に、
「初動対処」をいかにするかが焦点です。
とっさの判断が生死を分けた実例はこれまでの大災害でも数多くあります。従業員一人ひとり、各現場責任者などに漏れなく浸透し、
「初動対処」要領を会社の組織文化として定着させます。
顧客を有する企業にあっては、顧客の命を守ることを最優先し、そのために社員はどう行動するか、などあらゆる状況を想定して身につけた「初動対処」要領を発揮します。
その後、すみやかに「災害対策本部」(仮称)を立ち上げ、
全社的応急対策を講じます。
●災害復旧・復興計画(災害発生後約1週間~)
行政の「防災計画」はこの段階まで具体的に計画しますが、企業にあっては、BCPを作ることを前提に、本来、
防災計画において盛り込むべき災害復旧・復興計画とBCPの事業再開等と切り分けて計画します。
リスク認知の重要性
「防」災には限界があります。いかなる自然災害も事前に正確に予見することはおよそ不可能であす。よって、どのような防災・減災処置を講じても、災害発生時のリスクは残ります。
実際に、行政の防災計画もある程度のリスクを許容しつつ防災・減災処置を講じていますが、企業の特性上、財政負担の制限などから、さらなるリスクを許容せざるを得ません。
大事なことは、採算を度外視してリスクを完全に除去することを求めるよりも、可能な範囲でリスクの軽減に努力する一方で、起こり得る災害の実態や程度に応ずるリスクを分析・評価し、平時から自社のリスクを正しく理解しておくことです。これを
「リスク認知」と呼びます。
まとめ
通常の経営判断と平時の防災や災害発生時の的確な判断は別物と捉える必要があります。よって、全社的な平時の防災の「予防」処置の実行・監督と、災害発生時の至当な判断と必要な処置の提案など、経営者を補佐する「防災組織」が必要不可欠です。
また、「防災」に関する理解の輪が少しでも広がることが大切です。なぜならば、「防災」で最も大事なことは、
「一人ひとりが防災意識を持つこと」にあるからです。