
8月23日に提出されたパソナグループ第17期(2024年5月期)有価証券報告書にも記載された通り、パソナグループでは温室効果ガスの削減目標として、「2030年度にカーボンニュートラルを達成」を掲げています。
そこで、パソナグループのカーボンニュートラルへの取り組みや私たちができることなどについて、パソナグループ 執行役員 財務経理本部 IR室長 根本恵介さんに、お話をお伺いしました。

▲パソナグループ 根本恵介執行役員
■環境意識と時代と共に変わる企業に求められること
Q.まず初めに、「カーボンニュートラル」とは何か教えてください。
カーボンニュートラルとは、CO2などの温室効果ガスの排出量を“実質ゼロ”にすることです。
“実質ゼロ”というのは人間の生活や企業活動などで排出される温室効果ガス(電気などのエネルギーの使用や、自動車・工場などから排出される二酸化炭素等のこと)をできるだけ減らし、減らしきれなかった分は、例えば植林などによって吸収または除去することで差し引きゼロにすることです。
(※画像:環境省 脱酸素ポータルHP「カーボンニュートラルとは」より)
Q.なぜカーボンニュートラルが必要なのでしょうか。
地球温暖化は、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量が増加したことがその要因だと言われています。持続可能な社会、そして美しい地球環境を残すためには、温室効果ガスの排出量を抑え、地球温暖化を防ぐ努力が必要になります。しかし、私たち人類が生活する過程では、モノを生産したり、様々な商品を使用して廃棄するまで、温室効果ガスの排出を完全にゼロにするのは非常に困難だと言えます。そのため、削減しきれない分は、相当分を吸収する代替策を使って実質ゼロにする必要があるということです。
日本政府では、2020年10月、2050年にカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。世界でも多くの国が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げ、気候変動問題に取り組んでいます。
Q. 気候変動への対応は、ますます重要になっているのでしょうか。
気候変動への対応や温室効果ガスの削減に向けた企業の取り組みについては、上場企業で、特にプライム市場に上場する企業は、現状を把握し、リスクと機会を分析して、削減目標まで情報開示することが実質的に義務化されています。
投資家が企業に投資をする判断材料、また基準のひとつとして、従来の財務情報だけではなく、気候変動への対応状況といった非財務情報が重要視されるようになりました。私たちも日々実感しているのと同じく、異常気象や気候変動は企業活動の維持、安定に大きな影響を与えているからです。上場企業の有価証券報告書には、昨年から「サステナビリティ」の項目が追加されました。気候変動や環境対策だけではなく、人的資本や人権問題など様々な非財務情報の記載が義務付けられています。以前は、気候変動や地球環境問題といえば、事業と密接な製造業や運輸業、鉱業や化学工業などの企業が中心に思われていましたが、今ではサービス業や飲食業、情報通信業など、全ての産業に影響することなので、上場会社は「TCFD(※)」の枠組みを使用するなど、一定のルール・基準に従って情報開示をすることが求められています。
また近年では、自社の活動のサプライチェーン全体で温室効果ガスの排出量を測定して、その削減目標を設定する企業が増加しています。そのため、取引先から排出量や削減目標の提出を求められ、中には取引の判断に使用する企業も増えています。
パソナグループとしても、こういった社会的要請を受けて、2021年に「環境マネジメント推進会議」(後に「環境委員会」と統合して「環境マネジメント推進委員会」)を設立。二酸化炭素排出量の可視化や環境の取り組みに関する情報開示に向けて、パソナグループの現状や課題を可視化することを目的に活動してきました。
そして、可視化や開示に向けた議論が進めながら、環境分野の取り組みを経営戦略の視点で捉え、「方針」や「目標」などを策定する組織として「環境経営戦略会議」が設立され、パソナグループの「2030年度カーボンニュートラル達成」に向けた方針などが議論されています。
▼「環境経営」を推進する組織のご紹介記事はこちらからご覧いただけます。
※TCFDとは:
TCFDとは「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task force on Climate-related Financial Disclosures)」の略で、金融安定理事会により設立された組織です。2017年6月に企業などに対して気候関連財務情報の開示を推奨する報告書を公表しました。
なお、TCFDは2023年10月をもって解散し、2024年よりIFRS(国際会計基準:International Financial Reporting Standards)が企業の気候関連開示の進捗状況の監視を引き継ぐこととなりました。
■2030年度 パソナグループ カーボンニュートラル宣言について
Q. パソナグループがカーボンニュートラルへ向けて掲げる目標は何ですか。
パソナグループは事業活動に伴う温室効果ガスの排出量を算出・測定するとともに、削減目標として「2030年度 カーボンニュートラル達成」を設定しています。
具体的には、現在はグループ9社の事業活動に伴う温室効果ガス排出量の「Scope1」「Scope2」がカーボンニュートラルの対象となります。
Q.対象となるグループ9社を教えて下さい。
現在、温室効果ガスの排出を算定している会社は、パソナグループ、パソナ、ニジゲンノモリ、パソナふるさとインキュベーション、パソナスマイル、パソナ農援隊、パソナ HR HUB、Awaji Nature Farm、awajishima resortの9社です。(*パソナスマイルは2024年6月1日付でパソナふるさとインキュベーションに合併)
温室効果ガスの排出という側面で、影響力のある9社を選定していますが、今後はグループ全社に広げていきたいと思っています。
Q. Scope1・2は、パソナグループの活動ではどのようなものにあたりますか。また、パソナグループの二酸化炭素排出削減に向けた主な取り組みを教えて下さい。
Scope1は主に社有車などで使用するガソリンなどの燃料によるものです。
Scope2は主にオフィスの照明やエアコンなどで使用する電力となります。
パソナグループはグループ全体で二酸化炭素排出削減に向けて、積極的な省エネ活動を推進しています。社有車は電気自動車やハイブリッド自動車へ切り替えを行っているほか、デジタル化推進によるペーパレス化に取り組んでいます。
また、淡路島の施設では、再生可能エネルギー由来の電力を積極的に利用しています。さらに、飲食施設等から出る食品残渣の一部を堆肥化し、農場に活用するなど、資源循環の取り組みも推進しています。
▲第17期 (2024年5月)有価証券報告書 18ページから抜粋
■企業活動とカーボンニュートラル
Q.企業が環境問題に取り組むにあたり、特に大切だと思われることは何ですか。
結局はその企業で働く「人」だと思います。排出量を減らしたいがあまり、事業活動そのものを委縮させることは本末転倒です。そのため、何か新しく事業を立ち上げる、あるいは事業を拡大させる場面で、企業の社会的な責任として、こうした温室効果ガスの排出量に気を配る思考を持っておくことだと思います。今は同じような商材でも、環境負荷を減らしたものやツールが数多くあります。また、消費者もエシカル志向になっているので、環境負荷の少ない商品やサービスの提供がブランド化され、顧客満足度を上げる効果があると言われています。そして、企業が削減目標を設定して、具体的に削減計画を立てるには、現状を知る「可視化」がとても大切です。可視化することで、具体的に数量として規模を把握して、何を変えれば減らす効果が大きいのか、優先順位を定めて対策を検討することができます。
可視化し、数値を見ると、なぜ増えたんだろう、なぜ減ったんだろうと、自分たちで分析が出来ます。また、社員の意識面でも変わってきますね。たとえば、エアコンの温度を1度上げましょうといった場合も、体感的には正直あまり変わらないかもしれませんが、数値で示すことで実感が出てきます。可視化することは、とても大切だと思います。
Q.パソナグループでは二酸化炭素排出量の可視化はどのように行われているのでしょうか。
パソナHRソリューション「サステナビリティ経営支援サービス」の「CO2排出量可視化BPOサービス」を使用しています。
算定には、1年間の膨大な数の会計データをもとに、その内容から二酸化炭素排出量を算定していきます。算定作業は、その量や種類が複雑であることから、とても自社の部署だけでできるボリュームではありません。パソナHRソリューションの専門サービスの需要は大変大きいと思っています。
▼パソナHRソリューション サステナビリティ経営支援サービスHP
https://lp.caplan.jp/kyouiku/environment/
Q.企業が成長し事業が拡大すると、人が増え新しい拠点が出来るなどから、どうしても二酸化炭素排出量が多くなってしまうかと思いますが、その点についてはどうお考えですか。
事業活動が拡大すれば、二酸化炭素の排出量は必ず増加します。そのため、増加していること自体がダメかというと、決してそうではないと思っています。情報開示においても、例えば事業所が増えたため前年度からは増加していることなど、その理由をきちんと把握し、明記しておけば何ら問題はありません。その上で、削減目標の達成に向けてどのようなアクションをしていくのか、取り組みを充実させていけばよいと思っています。
Q.事業の継続と環境対策はどのように融合すればいいのでしょうか。注意すべき点はありますか。
やはりバランスが大切だと思います。今年1月にアメリカ全土を猛烈な寒波が襲った際に、寒さのあまり電気自動車のバッテリー充電が機能せず、シカゴ市外で電気自動車の立ち往生が多発したというニュースがありました。こういった自然災害が発生する可能性もあるため、どちらかに偏りすぎてしまうと、逆に事業上のリスクにもなり得ることがあると思っています。
パソナグループは適切な事業継続が出来るよう、BCP対策として、社有車をすべて電気自動車にすることはせず、一部はPHEV車など災害時にエンジンを使って発電可能な車など、ガソリン車も一定数を戦略的に残す方針です。
■私たちにできること
Q.私たち社員一人ひとりが出来ることはありますか
日々の生活でも環境意識を持っていただきたいですね。例えばオフィスの中で使っていない会議室は電気を消しておこう、エアコンを消しておこうなど、些細なことでも年間通じると実は結構な使用量になります。会社にいると、誰かがやってくれるだろうと、つい思ってしまいますよね。でも自分の家だったら、使っていない部屋のエアコンをつけっ放しにしている人はいないと思います。誰かがやるのではなく、自分で行動すること。皆さんの心がけが、会社全体の大きな成果につながります。
Q.社員の環境意識向上のために取り組まれていることはありますか。
環境を考えるきっかけになるイベントをパソナグループは年間を通して多数行っています。例えば、アースデー(4月)とWorld Clean Up Day(9月)に合わせて、地域の環境美化活動や夏の打ち水活動など、様々な活動があります。1回参加してみると学べることは多いので、まずは一歩踏み出して欲しいですね。
また、今年6月にはグループ各社がパソナグループの環境宣言に基づいて2023年度に取り組んだ環境活動を共有する「エコアクション共有会」が開催されました。個社ごとに目標を立てて、事業の内容や地域の特性に応じて、環境に良い影響を与える活動を行い、またそれを共有することでグループ全体の環境保全への意識向上につながっていると思います。
パソナグループはカーボンニュートラルの実現を目指し、将来を担う次の世代に健全で美しい地球環境を残すため、限りある資源を大切にし、企業活動を通して引き続き環境保全活動取り組んでまいります。
私たち一人ひとりも地球の未来を守るため、出来ることから行動してみませんか。
▼パソナグループ有価証券報告書はこちらからご覧いただけます。
https://www.pasonagroup.co.jp/Portals/0/resources/ir/data/pdf/FY2023_securities-report.pdf
配信日:2024年8月30日